2013年6月9日日曜日

山月記


高校の休み時間、数名のクラスメイトに手足を持って担がれ、仰向けでトイレに運ばれる奴がいた。どうやら、彼のその坊主頭で便器を掃除してみるらしい。

たしかに水平に運ばれる坊主頭は、トイレ掃除のゴシゴシするヤツに似てないこともない。
むしろ面積がひろくて掃除にはもってこ、おい!!!いじめだろ!!!企画が結構おもしろそうだったからまじめに考察までしちゃったけど、いじめだろ!!!

しかし、そんな僕の心配をよそに、運ばれてった坊主頭の顔はまさにこれから地球を旅立つ宇宙飛行士のそれだった。驚くほどキラキラしていた。なんだあいつは。気持ちわりぃ。




そんな、坊主頭で小太りのそいつが僕の高校時代の親友だ。同じ柔道部で、同い年は僕ら2人だけだった。蒸したそらまめみたいな顔した彼が自己紹介で「ど~もイケメンです」なんて言う度に僕が彼の頭を叩いた。
ひいき目に見ても下の中なのだからツッコミというより制裁だし、訴訟になってもたぶん僕が勝ったと思う。

滑舌も悪い彼は「ちょっと」が言えないから、僕らの耳に入るのはいつも 「とっと」で、
「とっと!やめなさいって!」と言いながら彼がクラスメイトにいじられているのは日常茶飯事だった。




「とっと!やめなさいって!!とっと!私は便器ブラシじゃないって!!」
いいリアクションでトイレに運ばれていくそらまめ。
クラスのお調子者共に運ばれ順調に小便器に向かっていく小太り。

そのまま頭が便器についてもそこそこの笑いにはなったとは思うが、直前で洗浄センサーが反応しブシャッと水が彼の目にかかり「とっと!目に入ったって!!とっと!」という女神降臨大爆笑展開になった。少なくともビッグダディよりは面白かったと思う。

何より私が言いたいのは、そのくだりが落ち着いた後、彼がボソッと言った「もっと(笑い)取れたなぁ…」が忘れられないということ。僕がお笑いを好きになったのも彼の影響が大きいのだと思う。でも頭で便器掃除させられるとか俺だったら高校辞めてるし、やっぱ気持ちわりぃ。






そんな彼と久々に遊ぶ機会があってカラオケに行った。頭でトイレ掃除の高校時代から4年以上経つが未だに仲よくしている。
尾崎紀世彦と松田聖子ばかり歌う気持ちわりぃ彼がめずらしく歌ったこんな曲が印象に残ってる。

「everydayカチューシャ」
時代の波に乗ったつもりなのだろうが、いかんせん彼は坊主なのだからカチューシャの居場所はそこにはない。あと彼なりのアイドル顔に腹が立った。

「フライングゲット」
調子乗ったなこれは。ずっと彼女がいない彼はフライングどころかゲットもままならないタイムオーバー野郎が歌ってると思うとサビのたびに腹がいたかった。

「I love you」
尾崎は尾崎でも豊の方だ。何度も言うがベッドを軋ませる相手など彼にはいない。なんならたぶんコイツ布団で寝てる。





こうやって彼に会ったり、彼のエピソードを思い出したりするのが僕にとってリフレッシュのひとつだ
。忙しい毎日に追われて死なないように、頭で掃除する便器を探せるように。





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